ファンタスティック・ビーストは5部作として始まった壮大なプロジェクトでしたが、3作目を最後に「打ち切りか?」という声が広がっています。なぜ世界的に人気を集めたシリーズが、途中で歩みを止めることになったのでしょうか。本記事では、興行収入の落ち込みやJ.K.ローリング氏の炎上問題、ジョニー・デップ氏の降板といった要因を丁寧にひも解きながら、シリーズ終了に至った背景を深掘りします。また、打ち切り後の「ハリー・ポッター世界」の今後や、再始動の可能性についても紹介します。読み終える頃には、「なぜ打ち切りになったのか」が明確に理解できるはずです。
ファンタスティック・ビーストが「打ち切り」と言われる本当の理由
興行収入の右肩下がりがもたらした決断
『ファンタスティック・ビースト』が打ち切りと見なされる最大の理由は、明らかに興行収入の低下です。シリーズを重ねるごとに、興行成績が大幅に落ち込んでいった現実があります。
というのも、2016年に公開された第1作『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』の北米興収は2億3,400万ドルで、世界全体では8億1,400万ドルという好成績でした。しかし、2018年公開の第2作『黒い魔法使いの誕生』では、北米が1億5,900万ドル、全世界では6億5,400万ドルと大きくダウン。さらに第3作『ダンブルドアの秘密』(2022年)は北米で9,500万ドル、世界全体でも4億ドル強にとどまりました。
この下記表をご覧いただくと、その落差が一目瞭然です。
作品名 | 北米興収 | 世界興収 | 公開年 |
第1作:魔法使いの旅 | 2.34億ドル | 8.14億ドル | 2016年 |
第2作:黒い魔法使いの誕生 | 1.59億ドル | 6.54億ドル | 2018年 |
第3作:ダンブルドアの秘密 | 0.95億ドル | 約4.0億ドル | 2022年 |
このように、たった6年の間にシリーズの収益が半減以下にまで落ちたことで、スタジオは続編の製作を保留する判断を下しました。興行的な期待に応えられなければ、企画の継続が見送られるのは当然の流れです。
映画業界では「北米で1億ドルを超えなければヒットとは言えない」という基準がある中、第3作の結果は厳しい現実を突きつけました。数字が証明する通り、興行収入の低迷が打ち切りを招いた決定打といえます。
3作目で見えた赤信号:収支トントンの現実
第3作『ダンブルドアの秘密』が公開された時点で、すでに収益構造には限界が見えていました。製作費は約2億ドル、さらに宣伝費を加えると総コストは推定で3億ドル以上とされています。しかし、最終的な全世界興行収入は約4億ドルにとどまりました。
一見すると黒字のようにも見えますが、配給会社や劇場の取り分を差し引くと、ワーナー・ブラザースに入る実収益は興収の50〜55%程度です。つまり、2億ドル前後しか回収できない計算になります。
この状況を表で整理すると、より明確になります。
項目 | 金額(推定) |
製作費 | 2.0億ドル |
宣伝・マーケ費 | 1.0億ドル |
総コスト | 約3.0億ドル |
全世界興収 | 約4.0億ドル |
スタジオ取り分(約50%) | 約2.0億ドル |
損益 | トントン、または赤字の可能性 |
このように、ビジネスとしての「旨味」が非常に薄くなっていることが明らかです。スタジオが即座に第4作の脚本を発注しなかったのも無理はありません。赤字覚悟でシリーズを続ける理由が見当たらなければ、プロジェクトを凍結するのは自然な判断です。
なぜ人気シリーズがこうなった?「ファンタビ打ち切り理由」の背景を探る
観客動員数の減少と映画館離れの影響
『ファンタスティック・ビースト』シリーズが失速した背景には、パンデミックの影響と映画館離れという時代の変化が深く関係しています。
特に第3作が公開された2022年4月は、まだコロナ禍の影響が残っており、欧米では「映画館に行くのが怖い」という感情を持っている人も多かった時期です。しかし、それでも同時期に公開された『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』や『トップガン マーヴェリック』は記録的なヒットを飛ばしています。
つまり、単に「コロナのせい」ではなく、作品自体の魅力不足や、ファンの興味の減退が明確に表れた結果だといえます。観客が積極的に足を運ぶだけの動機が『ファンタビ』には足りなかったという現実が打ち切りの後押しになりました。
J.K.ローリングの炎上とファン離れ
もう一つ見逃せないのは、原作者であるJ.K.ローリング氏の発言によるイメージ悪化です。近年、彼女はトランスジェンダーに関する差別的なコメントをSNSで繰り返し発信しており、大きな批判を集めています。
ファンの間でも賛否が分かれ、ローリング氏の発言に失望した人たちは「もう彼女の作品を観たくない」と表明するケースも増えました。これにより、特に欧米の若い世代のファンが離れたことは確実です。
『ファンタスティック・ビースト』はローリング氏が直接脚本に関わっているシリーズであり、彼女の存在は切っても切れません。そのため、作者の炎上がそのまま作品離れにつながるという、極めて特殊で深刻な影響を受けてしまいました。
ジョニー・デップ降板騒動とキャスト交代の混乱
そして、シリーズの打ち切りを語る上で避けて通れないのが、ジョニー・デップ氏の降板問題です。第2作で強烈な存在感を放っていたグリンデルバルド役ですが、デップ氏がイギリスのタブロイド紙との訴訟に敗訴したことを理由に、ワーナー・ブラザースは彼を事実上解雇しました。
その後、代役にはマッツ・ミケルセン氏が起用されましたが、キャスト交代に納得がいかないファンも多く、作品への興味を失った人も少なくありません。
デップ氏のファンは非常に行動力が強く、アカデミー賞のファン投票でマイナー映画『MINAMATA-ミナマタ-』を上位にランクインさせるほどです。そのようなファン層を怒らせてしまったことが、結果的にシリーズ全体の支持を下げてしまいました。
「ファンタビはなぜ失敗したのか?」シリーズ構造の問題点
原作なしの映画脚本:シリーズ構成の弱さ
『ファンタスティック・ビースト』が失速した大きな原因のひとつは、原作小説が存在しない点です。『ハリー・ポッター』シリーズはすでにベストセラーの原作があり、それを忠実に映画化する形式がファンに支持されていました。
しかし、『ファンタビ』はJ.K.ローリング氏が映画のために新しく脚本を書き下ろす形で制作されており、その構成は一本ごとに発注されて進行していました。結果として、ストーリーの一貫性やテンポに不自然さが残り、観客が物語に深く没入しにくくなりました。
たとえば、政治的な話や魔法動物の描写など、ターゲットがどこにあるのか曖昧なまま展開される場面が多く見受けられました。これは、原作がない映画シリーズならではの弱点といえます。
キャラ人気と物語の乖離:観客とのズレ
さらに、キャラクターと物語のバランスが悪く、観客が感情移入しにくいという課題もありました。たとえば、主人公ニュート・スキャマンダーは個性的な魅力がある一方で、物語の軸がグリンデルバルドとダンブルドアの政治的対立に移っていきました。
この変化により、「魔法動物を巡る冒険」という第1作のワクワク感が薄れ、観客が求める娯楽性とのズレが生じました。好きだったキャラクターが影を潜め、新たなキャラクターとの接続が弱いと、シリーズへの愛着も薄れやすくなります。
観客との距離感が生まれたまま方向性を変更したことが、シリーズの命運を左右する結果となったのです。
打ち切り後の展望:「ハリー・ポッター世界」は終わらない
新プロジェクトの可能性:リブート・ドラマ化・舞台作品など
ファンタスティック・ビーストの打ち切りが現実味を帯びてきた今、ハリー・ポッターの魔法世界が完全に終わるわけではありません。むしろ、ここから新たな形で再始動する可能性が高まっています。
その理由として、ワーナー・ブラザースにとってハリー・ポッターシリーズは「最重要コンテンツ」である点が挙げられます。2022年に発足したワーナー・ブラザース・ディスカバリーのCEOデビッド・ザスラフ氏も、「シリーズ作品への注力とJ.K.ローリングとの連携」を明言しており、新プロジェクトの水面下での進行が期待されています。
実際に今、複数の再始動プランが検討されています。
▶︎ 新プロジェクトの有力候補一覧
形式 | 内容 | 期待度 | 備考 |
ドラマシリーズ | ホグワーツ1年生からの新リブート案 | ★★★★★ | 原作忠実に再構成される可能性が高い |
舞台作品拡大 | 「ハリー・ポッターと呪いの子」続編や前日譚 | ★★★★☆ | 舞台化→映画化の展開も視野 |
アニメシリーズ | 子ども向けスピンオフなど | ★★★☆☆ | HBO Maxなどの配信で展開の可能性あり |
映画スピンオフ | マーリンや創設者4人の物語 | ★★☆☆☆ | 原作なしのためリスクも高め |
特に注目されているのは、「ハリー・ポッターと呪いの子」の映画化や、ホグワーツ創設時代を舞台にした完全新作です。これらは原作ファンの興味を再び引きつける素材として魅力的であり、世界中のファンからも期待の声が高まっています。
シリーズとしてのファンタビが終了しても、魔法ワールドの展開は止まりません。形を変えて息を吹き返す日は、そう遠くないかもしれません。
デップ復帰論やファンの動きは今後に影響するか?
ファンタスティック・ビーストシリーズで特に話題を呼んだのが、ジョニー・デップ氏のグリンデルバルド降板問題です。この出来事は、ファンの信頼を大きく揺るがせた要因のひとつでした。
デップ氏は、英タブロイド紙との名誉毀損訴訟で敗訴したことを受けてワーナーから降板要請を受けましたが、その後アメリカでの別訴訟では勝訴し、名誉を回復しました。これにより、「デップ復帰を望む声」が一層強まりました。
現グリンデルバルド役のマッツ・ミケルセン氏も、「デップが戻ってくるのなら、それを喜んで歓迎する」とコメントしており、キャスト側も柔軟な姿勢を示しています。ファンの間では復帰を求める署名運動やSNSでのキャンペーンも継続しており、その熱意は無視できないものとなっています。
▶︎ デップ降板を巡る動きと影響
- 2020年:イギリスで敗訴 → ワーナーが降板要請
- 2022年:アメリカで名誉回復 → ファンが再評価の動き
- SNS:#JusticeForJohnnyDeppがトレンド化
- アカデミー賞ファン投票:「MINAMATA」を上位に押し上げる
- ミケルセン氏の好意的コメントが復帰論を後押し
しかし、シリーズの打ち切りが濃厚になった現状では、ファンの声が作品復活を直接左右するには限界があります。莫大な製作費を伴う映画シリーズを再起動するには、収益面や制作体制の安定が絶対条件だからです。
とはいえ、ファンの熱量が将来的なプロジェクトに影響を与える可能性は十分あります。デップ氏の復帰を含むキャスト再編や続編制作が検討される際、世論の動向は無視できない重要なファクターとなるでしょう。
まとめ:ファンタスティック・ビースト打ち切りは避けられなかったのか?
映画業界の変化とシリーズの宿命
ファンタスティック・ビーストが打ち切りの流れとなった背景には、作品固有の問題だけでなく、映画業界全体の変化も影響しています。過去10年間で映画ビジネスの構造は大きく変わり、従来の「大作=成功」の方程式が崩れてきました。
まず、コロナ禍以降は配信サービスが急拡大し、観客が映画館に足を運ぶ動機が薄れました。そこに加えて、脚本や構成に課題を抱えたファンタビは、もはや「観なければいけない作品」ではなくなっていたのです。
また、シリーズ全体の制作方針にも無理がありました。5部作構想を打ち出しながら、興行に応じて次作の脚本を発注するという方式では、長期的な構成力に欠けてしまいます。
▶︎ 打ち切りを招いた3つの宿命的な要因
- 興行収入の右肩下がり(第1作8.1億ドル → 第3作4.0億ドル)
- J.K.ローリングやキャストを巡るイメージ悪化
- 映画業界全体の収益構造の変化
このような要素が複合的に重なった結果、ファンタスティック・ビーストの打ち切りは、必然といえる流れでした。作品の力だけでなく、外的要因も強く影響した今回の打ち切りは、今後の映画制作にも大きな教訓を残すことになります。
ただし、魔法の世界自体が消えるわけではありません。ファンの声が届けば、違う形で再びスクリーンに戻ってくる可能性は残されています。重要なのは、どんな形で魔法を再燃させるかという未来のビジョンです。
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